2026年3月、みやぎ米穀は石垣島で初めてとなる節水型乾田直播(かんでんちょくは)の実証実験を開始しました。ヤンマーアグリジャパン株式会社およびヤンマー沖縄株式会社のご協力のもと実施したこの取り組みは、八重山毎日新聞、八重山日報社、石垣ケーブルテレビにも取り上げていただき、多くの反響をいただいています。
乾田直播とは?
通常の稲作は、まず苗を育て、田んぼに水を張って代かき(土を均す作業)を行い、そこに苗を1本1本植えていく「移植栽培」が一般的です。
乾田直播は、この工程を根本から変えます。水を張らない乾いた田んぼに、直接種もみを播く。つまり、育苗・代かき・田植えという一連の作業がまるごと不要になります。
育苗だけでも約1ヶ月の期間と、ハウスの管理、苗の運搬が必要です。これに代かき、田植え機での作業を加えると、稲作の全労働コストのおよそ4分の1を占めるとも言われています。乾田直播はこの負担を大幅にカットし、同じ人数でより広い面積をカバーすることを可能にします。
スリップローラーシーダーという播種機
今回の実証で使用したのが、スリップローラーシーダーです。トラクターの後部に装着して使う播種機で、施肥・播種・覆土・鎮圧を一工程で完了できます。
つまり、トラクターが圃場を1回走るだけで、肥料をまき、種を播き、土をかぶせ、しっかり押さえるところまで一気にやってくれる。これが石垣島に導入されたのは今回が初めてです。
従来の移植栽培では、ここに至るまでに育苗ハウスの準備、代かき用のロータリー作業、田植え機の稼働と、何日もかけて別々の工程を踏む必要がありました。それがスリップローラーシーダー1台で完結する。この省力化のインパクトは、担い手が減り続ける石垣島にとって非常に大きいものです。
なぜ今、石垣島で乾田直播なのか
石垣島の米農家は、10年前の約200名から約70名にまで減少しています。平均年齢は70代後半。一人あたりの管理面積は年々増え、作業負担は限界に近づいています。
乾田直播は、私たちにとって「攻め」ではなく「守り」のための技術革新です。少ない人手で、これまでと同じ面積——あるいはそれ以上の田んぼを維持するために。担い手が減る中で石垣島の田んぼを守り続けるために、どうしても必要な技術だと考えています。
さらに、乾田直播には省力化以外にも大きなメリットがあります。
- コスト削減: 育苗施設・田植え機が不要になり、経営コストを抑えられる
- 水資源の節約: 代かきや初期湛水の水が不要になるため、水の使用量が削減される
- メタンガスの排出削減: 湛水期間の短縮により、温室効果ガスの排出を抑制できる
- 大規模化への対応: 作業効率が上がることで、より広い面積の管理が可能になる
将来的には、サトウキビ畑からの転作や遊休農地への展開も視野に入れています。
「節水型」という言葉をめぐって
「節水型乾田直播」——私たちもこの名称で実証を始めましたし、新聞にもそう掲載されました。水を張らずに播種し、栽培期間中の水管理も従来の移植栽培に比べて大幅に節水できるのは事実です。
「節水型」の核心にあるのは、実は水を減らすこと自体ではありません。菌根菌(マイコス菌)やビール酵母を種もみにまぶすことで、根を強くするという新しい技術です。菌根菌は植物の根と共生し、菌糸が根の表面積を飛躍的に拡大させます。これにより水分や養分の吸収能力が格段に向上し、結果として少ない水でも稲がしっかり育つ。「節水」は、根が強くなったことの結果なのです。
ただ、最近の農業界ではこの「節水型」という呼び方についても議論が出てきています。乾田直播の本質的な価値は節水だけにとどまらず、省力化、大規模化対応、環境負荷の低減と多岐にわたる。「節水」だけを前面に出すと、技術の本来の意義が狭く捉えられてしまうのではないか、という指摘です。
こうした議論があること自体、乾田直播という技術への注目度の高さを物語っています。私たちとしては、菌根菌による根の強化も含めた総合的な栽培体系の革新として、この技術に取り組んでいます。
石垣島ならではの挑戦
乾田直播は、すでに東北地方を中心に多くの実績が積み上がっています。しかし、石垣島の環境は本土とは大きく異なります。
まず、二期作。石垣島では年に2回の作付けが可能ですが、二期作の中で乾田直播をどう組み込むかは、まだ誰もやったことがありません。一期作(3月播種・6〜7月収穫)と二期作(8月播種・11月収穫)では気温も降雨パターンもまるで違い、それぞれに最適な栽培体系を確立する必要があります。
次に、雑草との戦い。石垣島の温暖な気候は発芽には有利ですが、雑草の生育スピードも本土の比ではありません。乾田直播では水による雑草抑制効果がないため、除草体系の確立が成功の鍵を握ります。現在、BASFのAI栽培管理システム「xarvio HEALTHY FIELDS」との連携も視野に入れ、データに基づいた除草スケジュールの最適化に取り組んでいます。
そして、短い栽培期間。特に二期作は約90日間の「短期決戦」。本州の150日間と比べて、すべてのスケジュールが圧縮されます。判断も対応もスピードが求められる。
一つずつデータを積み上げながら、石垣島ならではの乾田直播モデルを確立していきたいと考えています。
これからも発信していきます
弊社ではこれまでも、農業用ドローンによるGPS自動飛行散布や人工衛星による稲の生育観測など、スマート農業の導入を積極的に進めてきました。今回の乾田直播の実証は、石垣島の稲作における新たな技術的挑戦の一つです。
田植えの風景は変わるかもしれません。でも、田んぼの原風景を守りたいという想いは変わりません。
実証の進捗は、引き続きこのブログやSNSで発信していきます。